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名古屋地方裁判所 昭和60年(モ)71号 判決 1985年4月26日

債権者

破産者野田産業株式会社

破産管財人弁護士

坂本哲耶

債務者

中川鋼管株式会社

右代表者

中川忠彦

右訴訟代理人

安富敬作

山田正

安富巌

堀野家苗

主文

一  名古屋地方裁判所が同裁判所昭和五六年(ヨ)第六六七号債権仮差押申請事件につき昭和五六年五月一五日になした仮差押決定はこれを取り消す。

二  債権者の本件仮差押命令の申請はこれを却下する。

三  訴訟費用は債権者の負担とする。

四  この判決は、第一項に限り、仮に執行することができる。

事実

第一  当事者の求める裁判

一  申請の趣旨

主文第一項掲記の仮差押決定は、これを認可する。

二  申請の趣旨に対する答弁

主文第一ないし第三項と同旨

第二  当事者の主張

一  申請の理由

1  申請外野田産業株式会社は昭和五六年一月二六日名古屋地方裁判所において破産宣告を受け、弁護士坂本哲耶がその破産管財人(債権者)に選任された(昭和五五年(フ)第二五四号事件、以下本件破産事件という。)

2  債権者は、債務者に対し、別紙請求債権目録記載の否認権請求債権を被保全権利として、債権仮差押申請をなし(昭和五六年(ヨ)第六六七号事件)、昭和五六年五月一五日左記の主文の仮差押決定(以下、本件仮差押決定という。)がなされ、その執行がなされた。

「債権者の債務者に対する前記債権の執行を保全するため、債務者の第三債務者(国)に対する別紙差押債権目録記載の債権は、仮にこれを差押える。第三債務者は債務者に対し、右差押に係る債務の支払をしてはならない。」

3  よつて、申請の趣旨記載のとおりの裁判を求める。

二  申請の理由に対する答弁及び異議の理由

1  申請の理由第1、第2項の事実は認め、第3項は争う。

2  異議の理由

(一) 本件破産事件については、昭和五八年一〇月一一日に強制和議認可決定がなされ、右認可決定は確定し、その後開かれた債権者集会において破産管財人の任務終了による計算を承認されたため、昭和五九年六月六日破産終結決定がなされ、昭和五九年七月二七日の官報において、右決定の公告がなされた。

(二) ところで、否認権は、破産宣告を前提として破産管財人のみが行使しうる権利であるから、たとえ、強制和議が確定して代表取締役が破産会社の代表権を回復しても破産者である野田産業株式会社が本件仮差押事件を承継することはできないから、債権者が当事者とならざるを得ない。

そして、本件破産事件が終結している以上、否認権行使を被保全権利とする本件仮差押決定は、失当となる。

(三) しかし、本件仮差押決定の執行は解放されていず、債務者は取戻権の行使ができないので、債権者に対し、本件仮差押決定の取消を求める。

三  異議の理由に対する債権者の答弁

1  異議の理由(一)の事実は認め、(二)、(三)は争う。

2  強制和議成立後は、破産者であつた野田産業株式会社が債権者の地位を引きつぐことになり、債権の仮差押をどうするかについても管財人には何ら権限がないから、債権者に対する本件異議の申立は不適法である。

理由

一申請の理由第1、第2項の事実は、当事者間に争いがない。

二そこで、異議の理由の有無につき判断する。

1  異議の理由(一)の事実は、当事者間に争いがない。

2 そして、前記一の争いのない事実によれば、本件仮差押決定は否認権を被保全権利とするものであるが、否認権は破産宣告を前提として破産管財人のみが行使しうる権利であるから、強制和議が確定しても、破産者であつた野田産業株式会社が本件仮差押決定に係る訴訟を承継することはできない。

従つて、債権者は依然として右訴訟の当事者の地位を有するものである(その限りにおいて破産管財人の任務は未だ終了していないことになる。)。

そして、前記の如き否認権の性格上、強制和議確定後は、否認権を行使することができないから、本件仮差押決定の被保全権利は消滅したものというべきである。

三そうすると、債権者の本件仮差押命令の申請は失当であるから、右と結論を異にする主文第一項掲記の仮差押決定を取り消し、本件仮差押命令の申請を却下することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法八九条、仮執行宣言につき同法一九六条をそれぞれ適用して主文のとおり判決する。

(裁判官川井重男)

請求債権目録

一 金六〇〇万円

但、債務者において野田産業株式会社より昭和五五年一二月一日うけた金一七七一万四六三一円の弁済につき債権者が債務者に対して有する右同額の否認権請求債権の内金。

仮差押債権目録

一 金五四〇万円也

但、債務者が野田産業株式会社に対する名古屋地方裁判所昭和五五年(ヨ)第一八六七号仮差押申請事件につき仮差押の保証として昭和五五年一二月二五日名古屋法務局に供託した供託金五四〇万円(昭和五五年度金第二〇四八〇号)の供託金取戻請求権。

及び右供託金の払渡しを請求する日の前日までの利息払渡請求権。

但し、請求金額(六〇〇万円)に満るまで。

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